私は今まで約5年間ベトナムでオフショア開発をしてきました。会社の社長として、プロダクトマネージャーとして、プロジェクトマネージャーとして、開発メンバーとして、いろいろな立場でベトナムの開発チームと関わってきました。
その経験を通して感じたベトナム オフショア開発のメリット・デメリットをまとめてみようと思います。もし御社がベトナムオフショア、あるいはベトナム進出をご検討でしたら、その判断の一つになれば幸いです。
まえがき
まず始めに言っておきたいのが、私自身「オフショア」という言葉は好きではないということです。
「オフショア」という言葉には、簡単で、部分的で、たとえ失敗してもそこまで損失が出ないような業務を、物価が安い地域に外注し、費用を抑えるという意味を含んでいると考えているためです。もちろんこれは企業経営上は非常に重要なことですが、仕事をうける側としてはなからずしもポジティブな意味合いにはならないと思います。
ベトナムのエンジニアは優秀です。
今でこそベトナムのソフトウェア産業の殆どは「オフショア」ですが、将来的にはもっと自分で考えて自分で作り、人々の生活を変えるような仕事をしてもらいたいと願っています。
本ウェブサイトでは、一般的な、共通認識の取れやすい言葉として「オフショア」という言葉を使うことにします。つまり、「ソフトウェア開発を海外に外注する」という広義の意味で「オフショア」という言葉をとらえていただければと思います。
ベトナムオフショアのメリット
まずはベトナムでオフショア開発をすることのメリットを挙げていきたいと思います。
プログラミングに向いている
例えば国際数学オリンピックでも、ベトナムはメダル数上位ランキングの常連で、日本よりメダルを取っている年もあります。町の風景を見れば、学生はネットゲームに没頭し、信号待ちやエレベーター待ちの度にパズルゲームをし、お茶をのみながら中国将棋を楽しんでいたりします。ベトナム人(主に男性)は、論理的な思考に長けているようです。
非常に真面目で勤勉な国民性
一般的にベトナム人は非常に勤勉で真面目な性格が強いと言われています。
これは定性的な話なので、事実を元に検証することは出来ませんが、私の周りには会社が終わったあとに夜間学校に通ったり、大学のうちからインターンで実地経験を積んだりしている人はたくさんいます。また、日本料理屋さんのスタッフの子が、日本人のお客さんに日本語を教えてもらったりするなんていう光景もよくみます。僕の個人的な感覚としても、ベトナム人は非常に向学心が強いように思います。
時間距離も物理的距離も近い
ハノイやホーチミンは日本各都市の空港へ直行便が出ており、ハノイー羽田で約5時間程度です。福岡だと4時間以内に着くこともあります。この程度の移動であれば映画や本を2,3本見ていれば着くので全く苦になりません。
また、時差もたった2時間(日本から見て−2時間)しかありませんので、業務上の支障もほとんどありません。
同じアジアなので当然といえば当然ですが、時間的/物理的距離の近さは非常に魅力的で、日本ーベトナム間でリモートで仕事をするといったことも簡単に出来ます。
日本語人材を積極的に育てている
ざっと上げてみると、ハノイ工科大学のIT系の日本語人材を教育するHEDSPIプロジェクトや、日本語を第一外国語として選択可能な学校、ブリッジSEを1万人育てる計画をだしているFTPソフトウェア等、ベトナムは日本語人材の教育を積極的に進めています。ベトナムにとっても日本は重要なパートナーということです。
平和で住みやすいので駐在に向いている
スリやひったくりの類の犯罪は当然あります。また、交通事情もカオスなので交通事故のリスクもあると言えばあります。ただし、東南アジアの中でも非常に治安はよく、凶悪事件に巻き込まれる可能性は非常に低いです。会社としても、出張や駐在の許可をだしやすい国の一つだと思います。
日本っぽい
これは非常に主観的で、私の個人的な意見に過ぎませんが、アジア大陸に位置する国の中でも、非常に「日本の懐かしさ」のようなものを感じる国だと思います。根拠はやはり人と食にあると思います。
ベトナム人は非常に家族を大切にします。ご近所付き合いも活発です。また、ベトナムでは飲みニケーションも可能です。要は、飲み食いしながらワイワイやるのが大好きな人が多いです。
主食は当然米ですし、野菜や魚を好んでべます。ベトナム料理や日本人の口に合いやすいです。
町並みは日本と全然違いますし、ハノイに至ってはコンビニもほとんどありませんが、それでもほとんど違和感なく生活できるのは、このようにベースの部分で日本人と共通する部分が多いからでは無いでしょうか。
ベトナムにはどことなく懐かしい景色が広がります。
ベトナムオフショアのデメリット
良いことばかり書いてきましたが、当然オフショアはそこまで簡単ではありません。以下に、気をつけるべき点を挙げてみたいと思います。
物価上昇が激しい
一時期に比べるとだいぶ落ち着いてきましたが、ベトナムの物価上昇率は高いです。物価が上昇しているということは、最低賃金や平均給与もどんどんあがっているということです。もし開発コスト目的でベトナムオフショアを考えられているのであれば、この点も加味して判断する必要があります。数年後には日本のニアショアとあまり変わらない価格帯になるかもしれませんね。
全体的に若く経験に乏しい
ベトナムの人口ピラミッドはまだまだ一番若い世代が一番膨らんでおり、平均年齢もやっと30歳を越えたくらいです。特にIT業界は、産業自体が若いので、エンジニアも総じて若いです。つまり、十分な経験を積んだエンジニアの数が少ないです。且つ、彼らの大半はずっと「オフショア」をやってきており、たとえ経験年数が長くても、あまり濃い経験を積んでいなかったりするのが実情です。
ベトナムのエンジニアは全体的に若いです。写真はハノイ国家大学の学生達。
いきなり「日本品質」は難しい
どんなに品質を担保する体制を組んでも、日本人が求める日本クオリティをいきなり出すのはかなり難しいです。これはまた別の機会でも書こうと思いますが、原因は主に2つだと考えています。①日本がどのレベルで品質を求めているかの合意形成が取れていない、②日本が求める品質レベルで仕事した経験がほとんど無い。なので、仕事を出す日本側もある程度育てるという姿勢が求めらますし、いきなり難しいプロジェクトを開始するのではなく、プロトタイプを作ってみるなど徐々にチームを大きくしていくなどの対策が必要になってきます。
社会インフラはまだまだ
電車が走っていない、舗装されていない道路が多い、下水道整備が不十分等あげればキリがありませんし、こういう点にストレスを感じて駐在出来ない日本人もいるのではないかと思います。しかし、一番業務上影響が大きいのは「インターネットが遅い」ことです。
特に、AAG海底ケーブルが頻繁に切断し、その事故が起きるともう、ほとんど仕事にならないくらいネットの速度が低下します。