こんにちは、スクーティー代表のかけやと申します。
弊社は生成AIを強みとするベトナムオフショア開発・ラボ型開発や、生成AIコンサルティングなどのサービスを提供しており、最近はありがたいことに生成AIと連携したシステム開発のご依頼を数多く頂いています。
Microsoft社と中国人民大学が共同開発したCoRAG(Chain-of-Retrieval Augmented Generation)は、データサイエンスと機械学習の分野で注目を集めています。この革新的なモデルは、複雑で知識集約型のタスクにおいて従来のモデルを凌駕する性能を発揮し、精度と効率性の新たな基準を打ち立てました。
本記事では、CoRAGの基本概念からその仕組み、応用例まで詳細に解説するとともに、各章の終わりに要点を補足し、全体の流れと具体的な数値情報も交えながら、現実世界の課題解決にどのように寄与するのかについてまとめています。
CoRAG革命:新たなAIモデルの特徴


まずRAGについて知りたいという方は、ぜひこちらの記事を先にご覧ください。
関連記事:生成AIのRAGとは何ですか?専門家が詳しく解説


従来モデルとの違い
従来の機械学習モデル、特に質問応答(QA)やデータ検索などの知識集約型タスクに特化したモデルは、複雑なクエリに対して十分な推論能力を持たず、一度の検索で情報を取得する方式が限界として現れていました。Retrieval-Augmented Generation(RAG)モデルは、回答生成の前に外部データベースから関連情報を引き出すことでこの問題に挑戦してきましたが、多段階のクエリに対しては単一パスで十分な情報が得られないことが多く、不完全な回答しか出力できないという欠点がありました。CoRAGは、これまでのアプローチを根本的に見直し、複数の検索ステップを連続して実行できるよう設計され、各検索結果が次の検索のためのサブクエリとして利用される動的かつ反復的なプロセスを採用しています。
この仕組みにより、従来のモデルでは捉えられなかった微細な情報や複雑な関連性を段階的に抽出し、より詳細で精度の高い回答を生成することが実現されます。各検索ステップで取得された情報は、次の段階の検索指針として機能し、全体の回答生成過程において必要な情報の網羅性と一貫性を保ちつつ、細かなニュアンスまで把握することが可能となります。さらに、この反復的な検索プロセスは、人間が複雑な問題に取り組む際の段階的推論に類似しており、現実世界におけるデータ解析や問題解決のシナリオにおいて、モデルの柔軟性や適応性を大幅に向上させる効果が確認されています。
【要点まとめ】
- 従来モデルの一度きりの検索の限界を解消
- 複数検索ステップを活用し、動的・反復的な情報抽出を実現
- 回答の網羅性と正確性が大幅に向上
以上の点から、CoRAGは従来のRAGモデルに代わる革新的アプローチとして、データサイエンティストにとって非常に有用なツールとなっています。
動的で反復的なプロセスの導入
CoRAGの革新点は、単一のデータ取得から脱却し、反復的な検索プロセスを積極的に導入している点にあります。このモデルは、一度の検索で全体の情報を収集するのではなく、最初の検索結果を基に次の検索クエリを動的に生成し、段階的に情報の深堀りを行います。具体的には、初期のクエリによって取得された部分的な情報をもとに、その情報に関連する追加のサブクエリを自動的に形成し、連鎖的な検索を実施します。
こうして得られた各サブクエリの結果は、さらに次の検索段階の基盤となり、複数の層にわたって情報が統合されていくため、非常に複雑なクエリに対しても、抜け落ちることなく必要なデータを抽出することが可能となります。さらに、この反復プロセスは、各段階での検索結果の精度や文脈の一貫性を確保するためのフィードバックループとしても機能し、誤情報の断片や不整合なデータが次のステップに持ち越されるリスクを最小限に抑えます。
【要点まとめ】
- 初期検索結果を踏まえてサブクエリを動的生成
- 段階的な情報統合で複雑なクエリにも対応
- フィードバックループにより精度と一貫性を維持


このように、CoRAGの反復的なプロセスは、実運用において非常に効果的な情報抽出と統合の手法として評価されています。
CoRAGの技術的な仕組み


拒否サンプリングの活用
CoRAGの効果的なトレーニング手法として採用されているのが拒否サンプリングです。これは、中間検索チェーンを自動的に生成するための手法であり、従来のRAGデータセットが最終的な回答のみにフォーカスしていたのに対し、CoRAGでは各検索ステップでのサブクエリやサブアンサーを詳細に記録・活用します。具体的に言えば、複数の候補となる検索チェーンを並列に生成し、その中から論理的一貫性や関連性、対数尤度スコアに基づいて最も高品質なチェーンを選定します。このプロセスでは、低品質なチェーンが自動的に破棄されるため、誤った情報が次のステップに伝播するリスクが大幅に軽減されます。
【要点まとめ】
- 複数候補の並列生成と自動フィルタリング
- サブクエリ・サブアンサーの詳細な記録
- 高品質な検索チェーンの選定により精度向上
こうした拒否サンプリングの活用により、CoRAGは段階的な情報取得が可能となり、最終的な回答の品質向上につながっています。
拡張データセットによるトレーニング
CoRAGは、従来のモデルでは見逃されがちであった中間プロセスの情報を活用するため、拡張データセットを用いたトレーニングを実施しています。この拡張データセットには、各検索ステップで取得されたサブクエリ、サブアンサー、そしてその連鎖により得られた段階的な情報が詳細に含まれており、モデルはこれらの情報のパターンや関連性を学習することで、実際の応答生成プロセスにおいて、一連の検索チェーンを正確に予測し、最終回答に集約する能力を向上させています。各サブクエリごとに得られた特徴や文脈を内部層で統合・解析することで、豊富な情報ソースとして機能し、複雑な因果関係を明確に捉えることができます。
【要点まとめ】
- 中間プロセスの詳細な情報を含む拡張データセット
- 各検索ステップのパターンと因果関係を学習
- 最終回答への情報集約能力が向上
この手法により、CoRAGはマルチホップ質問応答のような複雑なタスクに対しても高い性能を発揮しています。
テスト時のパフォーマンスとデコード戦略


柔軟なデコード戦略の採用
テスト時には、CoRAGは応答生成の迅速性と精度の両立を図るため、複数のデコード戦略を柔軟に使用しています。具体的には、タスクの複雑度や要求される応答品質に応じて、貪欲デコード、ベストオブNサンプリング、ツリー検索といった各種戦略が用いられます。これらの戦略は、単に高速な応答生成や計算リソースの節約だけでなく、情報取得の過程で失われがちな細部の情報も補完する役割を担っており、最終的な回答の信頼性を確保するために不可欠です。
【要点まとめ】
- 戦略ごとに応答速度と精度のバランスを実現
- 計算リソースの消費と情報の網羅性を最適化
- 各戦略の柔軟な適用で多様なタスクに対応


こうしたデコード戦略により、データサイエンティストは各タスクに最も適した方法を選択し、高精度かつ高効率な結果を得ることが可能となります。
それぞれのデコード戦略の特徴
CoRAGでは、各デコード戦略がタスクや状況に応じた特性を有するよう設計されています。まず、貪欲デコードは各ステップで常に最も高い確率を持つ候補を選択するアプローチであり、計算効率が非常に高く、即時性が求められるシステムに最適です。一方、ベストオブNサンプリングは、複数の候補チェーンを同時に生成・評価し、その中から尤度の最も高いものを選定するため、探索範囲が広がり、重要な情報が漏れずに取得されます。さらに、ツリー検索は、多数の候補を分岐的に展開することで、非常に複雑な検索空間全体を徹底的にカバーし、最適なパスを深く追及する能力に優れています。
【要点まとめ】
- 貪欲デコード:迅速で計算効率に優れる
- ベストオブNサンプリング:幅広い探索により正確性向上
- ツリー検索:多数の候補を展開し、最適パスを追求
これらの戦略の組み合わせにより、CoRAGは多様なシナリオに柔軟かつ高精度な応答を提供します。
CoRAGの実際の応用例


多岐にわたる分野での活用
CoRAGの柔軟な検索戦略と多段階の推論プロセスは、ビジネスインテリジェンス、カスタマーサポート、ヘルスケアデータ分析、法律とコンプライアンスといった多くの領域で幅広く応用されています。ビジネスインテリジェンスの分野では、企業が市場の動向や競合状況を把握するために、様々な情報源からデータを迅速かつ正確に取得し、その結果を統合することで意思決定を支援するシステムとして機能します。
カスタマーサポートでは、複数のシステムやデータベースから問い合わせに対する情報を一元的に収集し、適切な回答を生成することで、顧客満足度と業務効率の向上に寄与しています。ヘルスケア分野では、医学論文や臨床試験データ、医療記録など、多様な情報ソースから得られるデータを統合し、正確な医療推奨や研究結果の分析を支援します。法律やコンプライアンスの分野においては、膨大な法律文献や判例情報、規制データを効率的にナビゲートし、関連情報を整理・統合することで、法務専門家が求める精緻な情報提供を可能にしています。
【要点まとめ】
- 各分野における迅速かつ正確な情報抽出
- 多角的なデータ統合が意思決定支援に有効
- 実運用事例により高い信頼性が実証
これらの実用例は、CoRAGの効果的な応用により、現場の課題解決に大きく寄与していることを示しています。
具体的な活用シナリオ
具体例を挙げると、ビジネスインテリジェンスの現場では、企業が市場調査を行う際に、複数のオンラインソースやデータベースからリアルタイムに情報を収集し、統合するための強力なエンジンとしてCoRAGが活用されています。例えば、競合他社の製品情報や市場動向に関するニュース記事、ソーシャルメディア上の消費者の声を段階的に抽出し、統合レポートにまとめることで、企業は戦略的な意思決定を迅速に行うことが可能となります。
また、カスタマーサポート部門では、過去の記録やFAQ、製品マニュアルなど、さまざまな情報源から必要なデータを動的に検索し、正確な回答を迅速に生成するシステムとして、CoRAGが導入されています。ヘルスケア分野では、病院内外の医療データや研究論文をリアルタイムに解析し、診断支援や新たな治療法の検討に活用され、法律分野では、数多くの判例情報や法制度文書を迅速に照合するツールとして利用されるなど、各分野での具体的な運用事例が確認されています。
【要点まとめ】
- 多様なデータソースを統合する実用的なシナリオ
- 戦略的意思決定や診断支援に直結する機能
- 各業界での運用事例が信頼性を裏付け


以上のシナリオにより、CoRAGは現実のビジネスや医療、法務など、あらゆる分野での活用が期待される強力なAIソリューションとして位置付けられます。
CoRAGのベンチマークとパフォーマンス


マルチホップ質問応答での優れた性能
CoRAGの有効性は、特にマルチホップ質問応答タスクにおいて明確に現れています。これらのタスクでは、モデルが複数の情報源から必要なデータを段階的に取得し、統合するプロセスが要求されます。従来のモデルでは、一度の検索で情報が不十分な場合、最終的な回答の精度が著しく低下するという問題がありましたが、CoRAGは反復的な検索と拒否サンプリングにより、各段階で取得される情報の質と量を大幅に向上させています。その結果、実際の評価においては、従来のRAGモデルと比較して完全一致(EM)スコアが10ポイント以上改善するという驚異的なパフォーマンス向上を実現しています。
【要点まとめ】
- マルチホップ応答での大幅な性能向上
- 各段階での情報取得による正確性の向上
- 定量的な評価指標で効果が実証済み
この結果は、複雑な質問にも対応可能なCoRAGの強力な能力を示しており、各種知識集約型タスクへの応用可能性を裏付けています。
KILTベンチマークでの最先端パフォーマンス
KILT(Knowledge Intensive Language Tasks)ベンチマークは、エンティティリンキング、オープン質問応答、事実検証など多岐にわたる知識集約型タスクに対して、モデルの真価を測る指標として広く採用されています。CoRAGは、このようなタスクセットにおいて、従来の技術を大きく凌ぐ性能を発揮し、最新の研究成果を元に新たな記録を打ち立てています。各タスクにおいて求められる精度、関連性、計算効率のバランスを徹底的に追求した結果、CoRAGはどの分野においても高い汎用性と応用力を示しており、複数のデータソースを総合する現実的な問題に対しても、極めて信頼性の高いAIソリューションを提供します。
【要点まとめ】
- KILTタスクでの最先端性能
- 複数タスクにおける高い汎用性
- 最新研究による性能評価が裏付け
このように、KILTベンチマークでの結果は、CoRAGが高度な知識集約タスクにおける新たなスタンダードとして確固たる地位を築いていることを示しています。
CoRAGのスケーリングと将来性


検索チェーンの拡張とパフォーマンス
CoRAGは、その柔軟なスケーリング機能により、検索チェーンの長さや並列展開するサンプル数を自由に調整することが可能です。これは、タスクの複雑性や利用環境に合わせ、情報取得の深さや計算リソースの消費量を最適化できるため、非常に実用的なアプローチです。具体的には、検索チェーンの長さを段階的に延ばすことで、より多層的な情報統合が可能となり、通常では見逃しがちな微細な情報やニュアンスも捉えられます。ただし、チェーンが極端に長くなるとエラー伝播のリスクもあるため、最適なバランスが必要です。
【要点まとめ】
- 柔軟なチェーン長調整で多層的な情報統合
- 計算リソースと精度のバランスを最適化
- 実運用環境に応じた動的なパラメーター調整


このスケーラビリティの高さは、CoRAGが次世代AIモデルとして幅広い環境に適応するための大きな強みとなっています。
将来の展望と可能性
CoRAGは、精度の高い回答生成と柔軟なスケーリング能力という両面から、次世代の情報抽出および推論モデルとして、その存在感を確実に示しています。今後、より多くの実データを通した評価や、現実の複雑な課題への適用事例の蓄積によって、さらにその性能は飛躍的に向上することが期待されます。特に、クラウドコンピューティングやエッジデバイス上での展開が進む中で、計算リソースの制約を受けながらも最適解を導出できるCoRAGのアプローチは、多くの業界における新たな標準技術として採用される可能性が高いです。
【要点まとめ】
- 次世代AI技術としての将来性
- 実運用事例の蓄積で更なる性能向上
- 多様な環境への柔軟な適応力
このように、CoRAGは今後の技術進化と実運用において、より広範な分野での応用が期待できる革新的なモデルです。
まとめ


本記事では、CoRAGの基本概念、技術的な仕組み、各種デコード戦略、応用例、そしてベンチマークにおける性能評価とスケーリングの特性について詳しく解説しました。主要ポイントは以下の通りです:
- 従来モデルの限界を超え、動的かつ反復的な検索プロセスにより情報の網羅性と精度を大きく向上。
- 拒否サンプリングや拡張データセットを活用したトレーニングにより、段階的な情報取得が実現。
- 複数のデコード戦略によって、タスクの特性に合わせた最適な応答生成が可能。
- 実際の応用例や定量的指標から、CoRAGの信頼性と汎用性が裏付けられている。
- 柔軟なスケーリング能力により、将来の実運用環境や技術進化にも十分対応可能。
今後、CoRAGはさらに多くの実践的な応用事例を通じ、その革新性と信頼性が広く認められることで、データサイエンティストや研究者にとって不可欠なツールとして、その地位を確固たるものにしていくと考えられます。
以上の点を踏まえ、CoRAGは次世代のAIソリューションとして、今後の多様な課題解決に向けた大きな可能性を秘めています。
本記事では、CoRAGの基本概念、仕組み、応用例を解説し、現実世界の課題解決への貢献についてまとめています。弊社では、より柔軟で多様な業界ニーズに対応した生成AIコンサルティングサービスを提供しています。生成AIを活用した業務効率化や新たな価値創出にお悩みの方はぜひご連絡ください。